一大シーンを形成するコスプレイヤー。その中でも近年目を引くきらびやかなVtuberのコスプレたち。
彼らコスプレイヤーはどのようにVtuberと出会い、なぜ彼らのコスプレをするのか。
今回、NEVERSLEEPには花村きり、乃街まのの二人が登場。それぞれ思い入れのあるVtuberのコスプレに身を包み、コスプレやVtuberとの出会いとその魅力、始めた当時と今との環境の変化や互いのことまで語り尽くす。
取材・文:森山ド・ロ
取材・編集:ゆがみん
撮影:Dyemon
左:花村きり、右:乃街まの
©のりプロ
個人勢を推しの共通点から仲良くなった二人
──お二人はお互いをコスプレイヤーとしてどういう風に見てますか?
花村:もともと私はまのちゃんのことを知っていました。めちゃくちゃ可愛くて、世界観含めてクオリティが高いなって。
『ラブライブ!』とか『カードキャプターさくら』のコスプレをしているのを見たことがあって、「キャラクターによって表情やメイクで雰囲気を変えられるのがすごいな」っていうのが最初の印象でしたね。
それで繋がったきっかけはたぶんVtuber……だったと思います。お互いVtuberを好きになってからなんですよ。
乃街:私もきりちゃんが『プリズマ☆イリヤ』のクロエのコスプレをしているのを最初に見て、「こんなに似合う人いるんだ」って思ってました。
それからVtuberが流行ったあと、きりちゃんは名取さなさん、私は犬山たまきくんが好き、お互い企業じゃなくて個人勢を推しているという共通点から仲良くなりました。
きりちゃんはコスプレだけじゃなくてDJとか色々なことをやっているんですよ。アニクラとかVtuber楽曲メインのイベントを教えてもらって一緒に遊びに行ったり、そこで一緒にお仕事したり、きりちゃんをきっかけに色々なことを知ったんです。
自分の新しい好きなジャンルに触れるきっかけになったので、きりちゃんをすごく尊敬しています。
──そもそもVtuberを認知したのはいつ頃だったんでしょうか?
花村:いわゆる黎明期の時から認知はしてました。私はもともとゲーム実況とか、ボカロがすごく好きだったので、ニコニコ動画やYouTubeをめちゃくちゃ見てたんですよ。その関連動画として表示されていたキズナアイちゃんを知ったのが最初です。
そこから少し経って2018年ぐらいにデビューした名取さなさんが、性格からビジュアルまで自分の中でドンピシャでした。ハーフツインのロリで、視聴者(先生)との掛け合いがすごく面白くて声もほんとに可愛くて好きになりました!そこからvtuberにどっぷりハマりましたね。
乃街:私は、先ほど挙げた犬山たまきくんがデビューする前から佃煮のりお先生をフォローしていて、もともとよく見ていたんですよね。『FGO』でもアストルフォが好きだったみたいに「男の娘キャラ」が好きだったのでたまきくんが男の娘だと知って気になって見るようになりました(笑)。
キズナアイちゃんとか黎明期の四天王も知ってたんですけど、当時はそこまで刺さらなくて、でもすごく勢いのあるジャンルなんだなとは思ってました。たまきくんがデビューしたときは、自分の好きな作家さん本人がVtuberをやるのか、誰がやるのか最初はわかりませんでした。そのあと、ビジュアルとトークの上手さに引き込まれてすぐに好きになりました!
──好きなVtuberができたあと、どういう流れでコスプレをしようとなるんですか?
花村:私はハマるくらい好きになると、大体「コスプレで表現してみたい」って気持ちになるんですよ。だから最初にコスプレしたのも名取さなちゃんでしたね。
乃街:私も1番最初にコスプレしたのもたまきくんだったかな。たまきくんを好きになってから1年半ほど経ってからコスプレをしたんですよ。
コスプレするときって、他の方はそのキャラクターを知ってから半年くらいですることが多いと思うんですけど、私はたまきくんのとき、好き過ぎてずっとできなかったんですよね。好き過ぎてコスプレやるまでの期間が空くパターンもあるんですよ。やりたい気持ちはずっとあるから準備しようとは思うんですけど、逆にこだわりすぎてずっとできない、みたいな。
──それこそ2018年とか2019年は、キズナアイさんや輝夜月さんのような人気Vtuberのコスプレを多く見かけたんですが、その辺は通ってないんですか?
花村:私は、キズナアイちゃんのコスプレはしてましたね。
乃街:私は通ってないな。だけど、オリジナル楽曲は聴いていたし、他には特に田中ヒメちゃん・田中ヒナちゃん(ヒメヒナ)はすごく聴いてました。でもコスプレ自体はやってなかったですね。
正直、そこの線引きはちょっと難しいというか、純粋に似合いそうかどうかというのも重要だと思います。好きなコスプレはあるけど、絶対似合わないだろうというのはありますしね。
花村:そういう意味では、めちゃくちゃイケメンなキャラのコスプレをやっても、写真を見ると「なんか違うな」ってなる時はありますね(笑)。家で1回着て、写真で判断するみたいな。
──お二人にはコスプレイヤーの友達がたくさんいると思うんですが、コスプレイヤーさんのコミュニティでは、Vtuberはどのくらい認知されているんですか?
乃街:知らない人はいないと思います。なんなら、ちゃんと見ていて好きな人の方が多い気がします。
意識して見てなくても、『Apex Legends』とか人気のゲーム実況を見てると、かなりの確率でVtuberがやっているじゃないですか。ゲーム配信者さんが好きな人も、「(好きな実況者が出ている)大会にVtuberも出てるよね」みたいな感じで、間接的に知っている人も多いと思います。
花村:アニメやゲームのキャラのコスプレをしているレイヤーさんでも、「こういう子いるよね」みたいな感じで覚えてくれいてたりしますね。
実在するからこそ、Vtuberのコスプレで特に気を遣うこと
──Vtuberのコスプレをやっている人はどのくらいいるんでしょうか?
乃街:自分の周りで言うと、7割くらいはやっていると思います。今はすごく流行ってるし、配信を見る人も増えたので、Vtuberっていうジャンル自体が人気コンテンツになりましたよね。周りでも昔からVtuberを追っていなかった人でもコスプレすることが増えた印象があります。
花村:私もここ最近急激に増えたなって印象はありますね。
──たとえばニコニコ超会議やコミケでコスプレをするときは、仕事じゃない限り、ある程度は何のコスプレをするか自由だと思います。そういう時は何を基準にコスプレを選ぶんですか?
花村:コミケの場合は、好きなサークルや企業さんのブースにも遊びに行きたいので動きやすい服だったり、夏だったら気温のことを重視します。その上でやりたいコスプレを選ぶことが多いです。
乃街:Vtuberだったら、何種類か衣装がある人も多いです。新衣装や通常服を調べて、夏服なのか冬服なのかを把握して、季節に合わせて着ますね。
花村:冬に涼しい格好はまだギリギリ、移動中だけ羽織ればいけるんですけど、夏に冬服はさすがに死んじゃいますね(笑)。
©のりプロ
──そもそもVtuberのコスプレとアニメやゲームのコスプレとで違うところってあるんですか?
乃街:大きく違うのは、アニメやゲームと違って本人の目に触れる可能性が高いことですね。だからこその配慮、露出だったり色々と考えなくちゃいけないことがあります。
Vtuberさんには、それぞれ規約やガイドラインがあると思うのでそれを確認したり、コスプレ用のタグを持っているVtuberさんはそちらを活用したり、配慮することは多いです。コスプレが苦手な人に対してワンクッションを置く意味を込めて、直接ハッシュタグをつけたツイートに写真はつけずにツリーに投稿するみたいな。
花村:嫌いというわけではないんだけど、コスプレを見て生々しく感じちゃうと思う人はいると思います。2次元と3次元ではやっぱり違う。その辺りは意識して不快な思いをする人がいないように配慮してますね。
乃街:配慮することに関しては、アニメもVtuberも変わりはないんですが、Vtuberはご本人が二次創作を頻繁にチェックしたり、本人の意思が身近に存在します。Vtuberさんの中でも、あまりコスプレ写真にファンアートタグをつけないでほしいっていう人もいるので、その辺の下調べは必要になってくると思います。
花村:それこそVtuberさんは、バーチャルの世界で活動していたとしても、ちゃんとした人なんだということを意識しないといけないと思ってます。リアルに生きてる人だよと考えることが重要ですね。
乃街:実際にいる人物同士の絡みを描くことを、同人用語で「生物(なまもの)」って言いますよね。それに近いと思っていて、実際に存在する人だからこそ、十分な配慮をしていかなくちゃなって思います。
──他にVtuberのコスプレするにあたっての注意や特徴って何かあったりしますか?
花村:コスプレをやる前に、規約を見にいったりはしますね。
乃街:めっちゃ見ます。アニメでも基本的に二次創作がNGなものがあるように、それと同じようにVtuberさん個人や企業が決めている規約は絶対に見るようにしてますね。グッズはOKなのか、同人活動はOKなのか。同人誌はOKでグッズはNGみたいなパターンもあるんですよ。だから気をつけなくちゃいけないですよね。
花村:でも規約も難しい言い回しで書かれてたりもするので、読み解くこと自体にも色々と知識も必要になります。どこまでが大丈夫なのかのラインを見いだすのは難しかったりしますね。
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絵や文字が得意じゃなくてもコスプレなら表現できる
──そもそもお二人がコスプレを始めたきっかけはなんだったんでしょうか?
花村:高校時代、周りの友達がコスプレをやっていたのがきっかけでした。
乃街:私もアニメや漫画がすごく好きで、もともと可愛い服やキャラの服を着てみたいっていう気持ちはあったんですよ。友達に「コスプレ楽しいよ!」って教えてもらってチャレンジしました。
──物心付いた頃からコスプレという文化が身近にあったというのも要素としては大きかったんですか?
花村:確かに身近にはあったんですけど、今みたいに流行ってはいなかったですね。
乃街:私は愛知県出身なんですけど、愛知では小学生ぐらいの時から「世界コスプレサミット」という大きなコスプレイベントが開催されていたんですね。
なので、コスプレイヤーさんに対する憧れはずっとありました。でも、衣装自体安いものではないので、実際に始めたのはバイトができる高校生になってからです。
──アニメや漫画が好きだという気持ちがどのようにコスプレをやりたいに繋がったんでしょう?
花村:私は絵や文字で表現するのが得意ではなかったけど、「コスプレだったら自分で表現できるんじゃないか」って思いました。
もちろん、好きなキャラクターの真似がしたいという気持ちもあったと思います。「好きなキャラの服を着てキャッキャしたい!」みたいな。そういう感じのノリでしたね。
乃街:変身願望的なものがあったんだと思います。コスプレ以外にも、例えばロリータファッションってあるじゃないですか。
一般的に着られないような服に憧れる感覚で、それがたまたま好きなアニメや漫画のキャラの服装だったというか。
たぶん、コスプレを始める人って、「好きなキャラになりきりたい」って思いが最初のきっかけで、だんだん自己表現的な方向になるのかなって思います。
──コスプレを始めた頃と今とで、コスプレする作品選びをするときの気持ちに変化はありましたか?
花村:最初は「自分がやりたいからやる」という気持ちの方が強かったです。
今でも「(コスプレする)アニメ作品が好きだからやりたい」って気持ちでやってはいるんですけど、布教する意味を込めて実際にあったシーンの再現や「このキャラがここにいたら…!」というふうな表現をしたくて写真を撮ることもありますね。
マイナーなアニメ作品にハマって「こういう子がいるんだよ」と布教したい気持ちが芽生えた時は特に意識するかもしれません。フォロワーに、「みんなこの作品を見てくれ!」ってオススメするみたいな(笑)。
乃街:ファンアートを描いている人が「可愛いから描く」のやグッズ制作をする人と一緒で「推しを広めたい」っていう気持ちですね。
自分はファンだからコスプレしているぐらいの感覚なんですけど、「(誰かに)こう思わせたい、みんな肯定してくれ」とかは思ってないですね。好きな作品に対してもちょっと見てくれる人や一緒に話せる人が増えたらいいな、みたいな。
花村:シンプルなんですよ。そこまで深く考えてないって言ったら変ですけど、本当にコスプレが楽しいからやってるっていうのが強いですね。
乃街:ただ、これが商業的な話になると、自己満足の世界じゃなくなるんですよね。
既存のファンの人に納得してもらえるようなクオリティだったり、キャラクターらしさを出して、ちゃんと作品のPRをするように切り替えなくちゃいけない。案件をいただいて初めて触れる作品もあるんですけど、私はそういう出会い方も含めてコスプレの文化だと思ってます。
花村:案件を受けて、初めて作品に触れて、そこからその作品を好きになったっていう人も多いと思います。
新しい「好き」が見つかるのはどんな形であれいいことですよね。好きなレイヤーさんがコスプレやっていたから、その作品に触れたという方も多いと思いますし、私自身も友達や他のレイヤーさんがやっているのを見て、「ビジュアルがすごく可愛いな。世界観がいいな」って思って、触れてみた作品もたくさんあるんですよね。
乃街:私はいつもコスプレがどういうものなのか説明するとき、ディズニーをイメージしてもらうようにしています。ディズニーの世界って夢の国じゃないですか。ディズニーのキャストさんと同じようにコスプレって現実に創作物、お城やアトラクションがあるのと近い感覚があるんですよね。
公式イベントで、ゲームのキャラクターがステージ上に実際に出てきてパフォーマンスをしているのを見ると作品の中からキャラクターが現実にあらわれたような感覚になるんですよ。(作品の世界に)入り込んじゃうのが魅力だなって私は思います。
花村:もし好きな2次元のキャラが3次元にいたらどんなことをするかなって考えて表現することもあるんですけど、昔に比べて表現の幅が広がってきてるなって思います。
乃街:それこそVTuberも、技術が上がってきて、ライブや3Dの表現の幅が広がったりしてますよね。
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二人が考える原作者と二次創作者、ファンとの良い関係の築き方
──コスプレをする上で、どのようなこだわりを持ってますか?
花村:ビジュアル的な話で言うと、メイクや衣装に関しては、かなりこだわってますね。
あとはウィッグもそうなんですけど、完成形を想像していかにコスプレするその子に近づけるかへのこだわりは強いです。そのために、設定資料とかイラストと睨めっこして、どの化粧を使うのかって考えたり、細かいこだわりがたくさんあります。
乃街:Vtuberさんのファンアートって他ジャンルとくらべても特殊かもしれないです。
アニメの設定画なんて、イラストレーターさんはともかく、普段は拡大して見ないじゃないですか。Vtuberの皆さんは3面図をよく公開しているんですけど、本当に助かるんですよ。立ち絵1枚だとわからない箇所があるときに、3面図で細かく確認できるので、そういう意味ではVtuberのコスプレは比較的忠実に再現しやすいですね。
──コスプレのカルチャーを俯瞰的に見て、始めた時と現状のコスプレの環境の違いと言いますか、周りや環境の変化って何がありますか?
乃街:趣味としてやるものだったのが、企業がプロモーション効果を見込んでコスプレイヤーさんに案件を投げるようになって、仕事として受け入れられているのが顕著になってると思います。
今までは、えなこさんのようなプロコスプレイヤーと呼ばれている人たちがメインだったとは思うんですけど、今はより一般のレイヤーさんもある程度のフォロワー数を持ってる。例えば、学生やモデルの人が趣味でコスプレをやって、それがお仕事に繋がって副業になっているみたいな人も増えたと思うんですよ。
個人でもファンサイトを作ったり、商業的な活動ができるようになったと思います。
花村:もともとずっと趣味でコスプレをやってきたんですけど、イベントへの出演のようにお仕事としてコスプレをさせていただける機会が増えました。
趣味がお仕事に繋がってきたので、そういう意味では、昔とは変わったかなって印象はあります。アパレルなどで今も働いているんですけど、辞めずにたまにコスプレのお仕事を副業としていただいてます。好きなことが活動できているのも、やっぱりコスプレ業界自体が変わってきたのかなって思いますね。
乃街:あとは二次創作における著作権周りってまだまだグレーな要素が多いじゃないですか。趣味なら問題ないものも多いですが収益を伴うものは特に……。それはコスプレも例外じゃありません。
例えば自分がVtuberさんのコスプレをした時に、収益を伴うようなものであればその利益を数%でも還元できたらいいなって思ってます。著作権や規約に関して理解が難しい部分をちゃんと共有して、違反が起こってしまうことを減らしていけたら、もっと原作者(Vtuberさんご本人や版権元など)と二次創作者、ファンとの良い関係が築けるのかなと思いました。
──お二人はVtuberとコスプレ文化の関わり方はこれからどうなっていくと思いますか?
乃街:最近は有名なコスプレイヤーさんがストリーマーやVtuberと絡んで配信に出たりしているし、メタバースとかそういうバーチャル空間上でコラボしたり、色々なことができるなって思います。
花村:それこそ、有名なレイヤーさんたちがホロライブとのコラボで、ホロライブのメンバーの皆さんそれぞれの衣装を着て、ヤンジャンの表紙を飾っているのを見ると、レイヤーとVtuberさんが一緒にお仕事をしていく機会は増えていくのかなって思いました。
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ネバースリープ編集部 / NEVER SLEEP