シンガーソングライターとして活動するアザミ。
今回のインタビューでは、ライブ演出やアバターを用いた活動とVtuberシーンとの距離感、「アザミ」以前の学生時代からのバンド活動について語られた。
アバターとして活動を始めてから、なぜ生身の姿でライブを行うまでに至ったのか。過去の振り返り、活動に込めた思いを通して浮かび上がるアザミとしてのあり方。
取材・文:森山ド・ロ
取材・編集:ゆがみん
ピアノから始まったアザミの音楽活動
――音楽を始めたのはいつ頃ですか?
両親も音楽をやっている人だったので、その影響で中学から音楽系の学校でピアノをやっていました。ただ、ピアノをやるのは好きではなかったんです。
――どうしてピアノが嫌いだったんですか?
今となってはピアノをやっておいて良かったなと思うんですが、当時は練習が嫌いだったので、「勉強をしろ」って言われるとしたくなくなる感覚と似ています。そのせいか、白黒のものを見るだけでお腹痛くなるようになっちゃって……。
中学生の時からも軽音楽部でバンドをちょろちょろやっていたんですけど、高校生の時にピアノよりもこっちのほうがやりたいな思い、音楽理論を勉強するコースに進んで、今こんな感じになっています。
――バンドを始めたのはピアノから遠ざかるためでもあった、ということですか。
というよりは、もともと小学校の時からaikoさんがすごく好きで、そういう(ポップミュージックの)世界も素敵だと感じていました。
大きなきっかけになったのは『Angel Beats!』というアニメです。作中に登場するバンドのGirls Dead Monster(ガルデモ)の岩沢さんが最後にアコースティックギターを弾いて消えてくシーンを観て「あの茶色いやつ私もやりたい!」って思ってアコギを買ってもらいました。
――それでは軽音部ではギターを?
そうです。その時はアニメの『けいおん!』が流行っていて、部員も結構多かったんです。謎にドラムが人気でしたね(笑)。ギターをやりたいなと思って最初は歌う気もあまりなかったんですけど、ボーカルをしたい人が全然いなかったので、ギターボーカルでしたね。
――今ではボーカルのイメージが強いですが、最初は歌う気は全然なかったんですね。
全然なかったです。でも結局、家でギターを演奏しても歌ってくれる人はいなかったので、自分で弾き語りをやるようになりましたね。
――学生時代のバンドからどのような流れで「アザミ」が生まれていくんですか?
高校卒業するまでは、家では曲を作ったり、弾き語りをちょこちょこしてたんですけど、コピーバンドを遊びでやっていただけでした。
大学に入って、初めてちゃんとしたバンドを組んで、それからライブハウスでライブをするようになったんですね。
――最初のバンドはどのくらい続いたんですか?
1年半……くらいですね。バンドの寿命としては短い方だと思います。
バンドをやりたい気持ちが強かったので、その後も入れ替わり立ち替わりバンドを組んでたんですけど、結局1人でやった方が早いかもしれない、と思って自分の曲を作り始めました。
打ち込みしたものを流して、ドラマーと組んだユニットをやってみたり……。迷走して、なし崩し的に今の形になっていきました。
――今までの活動でターニングポイントになったと思う出来事を教えてください。
18歳の時に組んだバンドは、オリジナル曲をやることや、真剣にお客さんに向き合うことを意識した初めてのバンドでした。ちゃんと音楽で活動を続けていくなら、このくらい向き合わなきゃいけないんだなとか、そういうのを考え始めるきっかけになったかなと思います。
――現場至上主義であるバンド活動から、アザミとしての活動を始めるきっかけはなんだったんですか?
もともとネットの活動には一切興味がなかったんです。
YouTuberは趣味でたまに見るくらい。ましてや、Vtuberは存在すらも知らなかったんです。
活動を始めたのは、そこからコロナウイルスの影響もあって、ライブがだんだんできなくなっていったタイミング。歌える人を探している人がいると母から紹介されたんです。
とにかく最初は何をやっていいか全然わからなかったです。
――最初にバーチャルシーンで見たアーティストは誰でしたか?
紹介してくださった人の周りの方の配信などを見て勉強することはありましたが、特定のアーティストを見る、ということはなかったです。
当時は突発的すぎる展開だなと思ったんですけど、実際に配信を始めたら、今までの活動だとあまりなかったお客さんの声が直に届くようになりました。
自分の音楽を聴いてくれる人がいるってすごいことだな、せっかく聴いてくれる人がいるんだったらもっと曲を出そう、ということで作ったのがファーストアルバムでした。
それまではライブハウスで手売りで数枚売れればいいぐらいのものだったのが、こんなに買ってくれる人がいて、こんなに感想を言ってくれる人がいるんだと実感して、本当に頑張ってみようかなと思いました。
――活動を始めるにあたって、決め事や活動方針はあったんですか?
私は歌い手というより曲を書く方をメインに動いているんですけど、曲作りに関しては1人よがりにならないよう心がけています。
配信については、いい配信って「これはやってはいけない」とか「これは言っちゃいけない」みたいな約束をみんなが守った上で成り立ってるものだと思うんです。なので「あれはダメ、これはダメ」って私から言うよりは、みんなでそういう空気にしていけたらなっていう意識は持ってます。
――アザミとしての活動の中で、個人的に印象深かったことはなんでしょう?
本当にたくさんあります。
自分でMVを作って出すとか、アザミとして活動を始めてからDTMを始めたこと。CDを自分で作るという経験もですし、それをネットで売ったこともなかったので、やっと自分のやりたいことというか、ビジョンが見えてきた感覚があります。
3rdアルバムは初めてバンドメンバーを入れてレコーディングをしたんですけど、やっとスタートラインに立てたなという感じがあって、この3rdアルバムは今後ずっと印象に残っていくだろうなと思っています。自分のスキル的にも、バンドメンバーと一緒にやれるのかという不安もあったので、活動を通して修行をしていた感覚でした。
――アザミとして活動しながらも、ずっとバンドをやりたかったんですね
そうですね。ずっとやりたかったです。自分の根底にあるものなので。
基本的にはJ-POPを書きたいという感覚がベースにある
――先程は好きなアーティストとしてaikoさんの名前を出されていました。aikoさんの楽曲にはどのような魅力を感じていますか?
ピアノで曲を書かれている方なので、サウンド的な面というか、「ここでこのコードにいくんだ」みたいな音楽の作り方や感性がとにかく好きです。
あとは、感覚的な歌詞もすごく好きです。色々なアーティストの楽曲を聴かせていただいてはいるんですが、こういう場面で聞かれた場合、aikoさん以外の名前を出すことは基本ないですね。
――ご自身の楽曲にも、aikoさんの影響が大きいんでしょうか?
そうかもしれないです。私、J-POPが本当に好きなんです。
もちろん格好良くて、難解な曲を書ける人も素敵だと思うし、自分もそういうのを書いてみたいとは思うんですけど、基本的にはJ-POPを書きたいという感覚がベースにありますね。
――自分の楽曲で印象深い曲はなんですか?
自分の曲だと、最近出した「バクテリア」ですね。実は今まで写実的な表現をあまりしてこなかったんです。人となりがバレるのが恥ずかしかったんですね。
J-POPが好きなのもあって、音楽はエンターテイメントだと思っていたので、エンタメとしての暗い部分ならともかく、自分の暗い部分は、わかりやすく書かないようにしていました。「バクテリア」は初めてちゃんと自分の思っていることをそのまま書いた曲なんです。
――弾き語りって、自分のことを吐露するみたいなイメージを持っていたんですが、アザミさんはほとんどしていなかったんですね。
そうですね。それっぽく見えたのかもしれないんですけど、「額面通りには受け取るなよ」みたいな気持ちで当時からやっていたと思いますね。
――それではなぜ「バクテリア」では自分の思っていることを表現しようと思ったんですか?
バンドを解散してからずっと1人でやってきて、もう1回バンド組めるのかなとか、
このまま1人でやっていくのかなとか、私が本当にやりたい音楽はできるのかなって考えてたんですね。
もちろん今までの雲に隠れたような歌詞も今後書き続けるとは思うんですけど、さっきもお話したとおり最近スタートラインに立てたことで、正直な曲も1度書いておこうかなって思えたんです。
――実際書いてみてどうでしたか?
何をそんなにビビってたんだろうって感じでした。
本当は明るい前向きな曲にする予定だったんですけど、思っているより暗い曲になってしまって、私は結構暗い人間なんだなって思いました(笑)。
アザミの考えるライブのあり方
――アザミさんのライブを初めて見たのはエンタスでの2Dモデルを使ったライブでした。どういう流れで生身での配信ライブを決行したんですか?
自分の中で、それ以外の選択肢がなかったです。自分の中のライブが固まっていたので、あれ以外のやり方は、逆に一個も思いつかなかったです。
やっぱりバーチャルだったら3Dモデル作ってやっていくみたいなのが、普通というか自然な流れなのかもしれない。けど、自分の曲とか自分自身と向き合ってやってきて、そもそも自分はVtuberって自覚もあまりないんですよ。
だから「VtuberなんだからVtuberらしいライブにしよう」とかはあまり考えませんでした。セトリを決めて、「じゃあどういう風にやろうかな」って考えた時に、あれ以外のライブ表現が思いつかなかったんです。
――実際に生身でやると決めてから、実行するまでって大変でしたか?
最初は本当に1人でやったので、ファーストライブの時は結構大変でしたね。
ライブハウスの方が昔からお世話になっているところだったので、色々わがままを聞いていただいて実行することができました。
――アザミさんはライブで大事なものは何だと考えていますか?
生で聴いた方が絶対いいだろうなとは思っています。
今回はVJにchaosgrooveさんに入ってもらって、配信でも楽しんでいただける要素をたくさん入れたんですけど、それでもやっぱりお客さんを入れて目と目を合わせてライブをしたいですね。
――逆に配信ライブで意識してること、見せ方に対して考えていることはありますか?
音源でリリースしている曲もあるので、「ライブより音源の方がいいな」と思われないように、ライブの時にしかないヒリヒリ感みたいなものを大事にしたいなって思ってます。
ライブって、めちゃくちゃ間違えたけどそれはそれでめっちゃ楽しかったなみたいなのが起こるものだと思っているんです。でも、配信ライブはお客さんがいないので、なかなかそういうヒリヒリ感がないんですよ。
ライブの直前まで普通に煙草を吸っているので、スイッチが入りにくいとか、普通にお客さんを入れてライブをやったら、もっと何かが取り憑いたように記憶を失って暴れられる、みたいな部分が出せるんじゃないかって思います。
――配信ライブでは気持ちを切り替えるのが難しいということですね。
それでも、最初のSEが流れてカウントダウンが流れる辺りで、その場の全員がピリッとなる瞬間があるんですよ。周りのみんなの方が私より早くピリッとするので、それを見て、「やべっ!」となって切り替えるみたいな感じです(笑)。
ライブ前は、緊張はするんですけど、いい緊張じゃないというか。もちろんライブが始まればいい緊張に変わります。
――今後は観客ありでやっていくんですか?
そうですね。できるならやりたいなと思っているところです。
配信ライブという形式にも配信ライブなりの良さがあると思うので、要望があればやろうとは思うんですけど、目標としてはどこかのタイミングで有観客のライブを成功させることができたら、また一歩進めるかなと思ってます。
セトリは「その時にやった方がいいと思ったものを」
――ライブのセトリはどのようにして決めているんですか?
セトリは毎回自分で考えるんですけど、これまで1年に1度、その年の集大成みたいな感じでライブをさせてもらっているので、曲が増えれば増えるほどセトリを考えるのが難しくなってくるんですね。
誰かの好きな曲を必ずやれるわけじゃない。けど、「みんな好きだからこれやっとくか」と選曲しているわけじゃなくて、一応ちゃんと意味のあるセトリにはしています。
なので、私がその時にやった方がいいと思ったものをやっているっていうことが伝わってくれたらいいな。実際、「この曲やってほしかったけど、通して聞いたら意味がわかった」と言ってくれるリスナーもいて嬉しかったですね。
――今のライブ演出でアザミさんが可能性を感じている部分はどこですか?
最初にこの形態でライブをやろうと思った時は、それしか思いつかなかったから、何も考えていませんでした。
けど、よく考えたらこの形でライブやってる方って少ないですよね。ある意味ではタブー的な部分でもあるのかなとあとで気づいてすごく怯えました。ファンの人が生身の私をいきなり見たせいで、動揺するかもしれない。
Vtuberというカルチャーで突発的に活動を始めたやつが、いきなり生身でライブ始めて、文化自体を汚してしまったら失礼に当たるなっていうの考えてましたね。
とは言っても、実際やってみたら、みんな自然に受け入れていただいたので本当に安心しました。
――逆に今のライブスタイルのデメリット、このライブ形態だからこそ難しいところってどこですか?
カメラの方がヒンヒン言ってますね(笑)。顔を映せないので、普段のスイッチングとは違う緊張感があるみたいです。
だから色々と試行錯誤をしなくちゃいけないので、ご迷惑をおかけしてしまっているなって……。あとは、個別のカメラはあんまりピントを合わせすぎないようにしたり、「できるだけ前を向いてしゃがんで欲しい」と色々言われるんですけど、ライブになっちゃったら分からなくなっちゃうんですよね。
――そうした演出を考える上で参考にしたライブってありますか?
他のライブを参考にすることは全然なかったです。自分の頭の中で練り上げたので、最初は大変でした。
自分の頭に映像はあるんですけど、これをやるにはどうしたらいいのかわからなくて……。なので、今後も協力してくれる人はもちろん、自分が思い描いているライブのイメージを共有して分かってくれる人が必要になるかもしれないです。
――自分の配信スタイルは関係なく、今まで印象に残ったライブがあれば教えてください
Vtuberのクラブイベントは印象深かったです。
私はクラブにほとんど行ったことがなかったので、ライブ中に交流を深めていく感じが独特だなって思いました。ライブハウスでは演奏中に会話をすることってほぼないので、演者さん同士やお客さん同士で対話しているのはすごく印象的でした。
――アザミとしてアバターを用いて音楽を作ってきて、(Vtuber)カルチャーの中の音楽というものをどう捉えていますか?
色々な曲をやられてる方が多いなって思います。生身で人間性を出すと、「この人といえばこういう感じだよね」みたいな感じでイメージがつきやすいですけど、マルチなことをしていらっしゃる方が多いなって思います。もちろん音楽だけに限らずです。それはすごいなと思いますね。
アバターを使うことによって、表現の幅が広がったりすることもある。それこそポップな曲もあれば、かっこいい曲もできるし、音楽の幅も広がっていくんじゃないかなと思います。
――今後考えていることや目標にしていることを教えてください
今まで1年に1回しかライブをやっていなかったんですけど、もっとライブを見てもらいたいという気持ちがすごくあります。
無観客の配信ライブは閉鎖的な空間独特の楽しさがあって、それはそれですごくいいなとは思うんですけど、もっと色々な人に見てもらって、もっと色々な人と遊んだりできたらいいなと思います。
(V界隈は)私みたいなのでもライブをやってみて受け入れてくれたりとか、結構寛容な場所なのかなと思うので、色々なことにチャレンジしていきたいですね。
「バクテリア」
— アザミ (@azamissw) August 27, 2022
▷ https://t.co/hCcMfSl485
All tracks Written by アザミ
3rdアルバム「#プラトニック・オーバードーズ」
BOOTHにて発売中
購入はこちら
▷ https://t.co/SjYVSHx0Tm pic.twitter.com/Te4UmXSY0j
----------「アザミ」プロフィール----------
“音楽を作ったり酔っ払ったりしています。”
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ネバースリープ編集部 / NEVER SLEEP