Vtuber楽曲大賞2022の登壇者5選の厳選理由と感想

12月9日、新宿ロフトプラスワンにて4回目の「Vtuber楽曲大賞」が開催された。はじめにこのイベントの説明をすると、音楽批評を本格的に行うものではなく、世論調査を嗜みながら飲み会をするというコンセプトだ。このスタイルはこれまで開催された過去4回全て一貫されている。「Vtuber」の認知度が上がり、投票数は上がっていくのに対し、トーク内容は毎年オフレコ要素が増しているという変わったイベントではあるが、業界の裏話が好きな人にはもってこいのイベントだろう。そして、Vtuber楽曲大賞が「飲み会」である確固たる所以は、私森山ド・ロが未だに出演していることだ。一度、本イベントに来場したことがある人はお気づきだとは思うが、本当に喋らない。職務放棄をし、なんなら壇上でずっと飯を食ってる。普通のトークイベントであれば速攻クビになっているレベルです。それなのに未だに出演できているのは、あまりにもこのイベントが飲み会すぎるからでしょう。もちろん全くという訳ではなく、「自己紹介」「登壇者5選」という絶対に話さなくてはいけない時間が存在しており、そこで薄っぺらいトークをほんの数分喋っている。

そんな私ではありますが「俺のトークや5選なんて誰も興味ない」をモチベに毎年楽曲を選んでおり、イベントで話せなかった分、楽曲大賞後に文字で補足するという小癪な手段を毎年行なっている。いつもは個人ブログのノリで書いてきたが、この度メディアでコラムを執筆させていただけることになり、今年も楽曲大賞を少し振り返りつつ、発表できなかった2022年の楽曲を柔らかく紹介していこうと思う。

文:森山ド・ロ



5選について





一応5選として楽曲を選んではいるが、厳密には15曲ほど絞ってその中からよく聴いた順に上から5曲選んだりしている。好きなジャンルの傾向として、SSWやシンガー、バンドサウンドを好むことが多いため(ライターの厳選としてはすでに破綻している)、今までの5選も基本傾向通り。他の登壇者としての差別化として、名のあるクリエイターが携わっているとか、過去に仕事したことがある人とか、そういう俯瞰的で全体像を見た上での評価はやらないようにしている。あくまで本能的なところで、その曲が好きかどうか(ただのオタクなのでは?)で楽曲を選ぶことが多い。自分に追い討ちをかけることにはなるが、1回目の開催から「推しの曲、無条件で最高」を掲げているので、ある程度のバイアスはかかってしまう。本当であれば、楽曲の深掘りをした上で、バーチャルという垣根を超えて、音楽業界全体の中で音楽的にいかほど評価されているのかを加味した上で厳選することが求められているのかもしれないが、いかんせん「飲み会」なのでその辺は大目に見て欲しい。これから5選について、究極の個人的解釈で少しばかり厳選理由を解説する。

オレンジスケール / 長瀬有花



曲の構成やメロディの良さ、総合的に評価しうる点は数多くあるのだが、「オレンジスケール」を評価する上で個人的に1番刺さったところは、世界観だ。「長瀬有花」という見えそうで見えない、掴めそうで掴めない人物像を限りなく楽曲に落とし込んで忠実にパッケージ化している。しかし、そんなコンセプトじゃねえ!と言われてしまえば一瞬で滅びてしまう自論ではある。親近感を覚えるほどの日常的な言葉が並んでいるが、どこか悠遠。というかこのファジーな感覚は限りなく「長瀬有花」なんですよ個人的に。

雨降るスノードーム / 富士葵



去年リリースした「シンビジウム」で抱いた印象からの反動というか、見事にカウンターを食らったような感覚になった。個人的に、富士葵に求めてしまっている楽曲のテイストが「雨降るスノードーム」なのかもしれないと唸ってしまった。季節感の表現や富士葵の持つ優しい歌声がこれでもかと発揮されている。「シンビジウム」で見せた大人っぽさとか、「クリティカルシンキング」のようなキャッチーさもいいんだけど、「雨降るスノードーム」に関しては、なぜか原点回帰のような感覚を覚えてしまった。

バスタイムプラネタリウム / HACHI



強烈なほど耳に馴染むメロディと、限りなく日常に近い親近感溢れる歌詞が印象的な楽曲。こちらは楽曲を手掛けた海野水玉さんとHACHIさんの対談に携わった影響で、楽曲の解像度が上がりすぎて、今年絶対に外せない1曲になるという珍しくライターらしい選曲理由が存在する。HACHIという先鋭的シンガーが最も輝けるであろう表現に対する理解度の高さ、そして作曲家としてのアイデンティティもちゃんと組み込まれてた至高の名曲。

リトルハミング / 葉加瀬冬雪



今年の初聴衝撃度で言えば「ピルグリム」「オレンジスケール」と並ぶ。楽曲の好みだけで評価すると、間違いなく優勝と言っても過言ではないくらい今年ヘビロテした。前奏の耳馴染みすぎるギターとピアノのメロディから、葉加瀬冬雪の落ち着いた歌声がスッと入ってきた時の衝撃は今も忘れられない。楽曲とは関係ないが、MVも抜群にポップで愛くるしい。いまだに視聴回数が30万台なのが信じられないので、この記事をきっかけにぜひ聴いていただきたい。

プレイバック・ハイライト / 幽夏レイ



5選の中では唯一の個人勢で、今1番プッシュしたいバーチャルアーティストの幽夏レイ。高い次元にいるという前提で話すと、圧倒的な歌唱力や張り詰めるような表現力に秀でているというわけではないが、なかなか言い表せられない潜在的な楽曲に対するアプローチ力が抜群に高い。テクニカルな側面ではなく、生まれ持った声質やイントネーション、抽象的なところも含めて、「プレイバック・ハイライト」という楽曲との相性は計り知れない。楽曲の持つ疾走感がとにかく心地よく、季節感溢れるノスタルジーな歌詞も魅力的。



2022年おすすめしたい曲



5選には入れなかったものの、5選と同じくらい好きな楽曲が毎年存在する。というか、最近のバーチャルシーンの音楽に対するアプローチを考えると、5曲に絞るのはあまりにも酷すぎる。もちろんがむしゃらに5曲選んでいるわけではなく、他の登壇者の方達との兼ね合いも存在するので(この辺の駆け引きみたいなのが実は1番面白かったりする)、そういう色んな要素で5選に入らなかった楽曲をいくつか紹介する。(登壇者が選んでいるものは抜いてます)

ピルグリム / 理芽



skycave / TEMPLIME,星宮とと



アンナベイラブル / memex



Where The Chapstick Is? / ISA



暮らしおだやかであれ / PEYODA,てれかす



生まれただけ。feat.アザミ / 鹿あるく



暑中見舞い / 樫野創音



Little glow / 瀬戸乃とと






4回目を終えて



年々、これって「Vtuber楽曲大賞」で名前を上げていいのか悩むことが増えた。それくらいVtuberっていう言葉は本当にただの言葉になってきていて、特に企業勢はかなり外向きなプロモーションを打ち出しているのがわかるような1年だった。今年もにじさんじやホロライブの楽曲が投票を独占してはいるが、全くVtuberカルチャーに触れてこなかった層がメディアやサブスク、またはクリエイター周りの影響で楽曲を知る機会が圧倒的に増えたような印象が強い。純粋にファンの母数が多いよねっていう側面もあるけど、それ以外の導入も強くなった1年になったと思う。これがまさしく「メインストリームが本気を出してきた」に繋がる。

これは余談になるが、「にじホロを抜いたランキングも作れ」という声をめちゃくちゃ今年も見かけました...誰かやってくれないですかね(個人的に気になる)。





ネバースリープ編集部 / NEVER SLEEP